「エリザベート」を心理学的視点で

実在のオーストリア皇妃エリザベートの半生を描いたミュージカル「エリザベート」。

12月から1月にかけて、大阪でも上演されましたが、残念ながら熾烈なチケット争いに負けてしまったため、私は見に行けませんでした。一瞬、転売屋から買おうかという考えがよぎるほど、大好きな演目でありますが、それは控えることとしました。

悔しさまぎれに、今回は「エリザベート」を心理学的視点から考察してみたいと思います。

皇妃エリザベートは、バイエルン王国(現・ドイツ)の田舎貴族として、伸び伸びと自由に育ってきましたが、オーストリア帝国の皇帝と結婚したことで人生が一変しました。窮屈で不幸な宮廷生活から自我を抑え込まれ、放浪の旅に出たことで有名です。現在の精神医学的に診断されるとしたら、適応障害やうつ病、摂食障害などの病名が付けられるのではないでしょうか。死への憧れが常に付きまとう彼女の生き様を、ミュージカルでは「死=黄泉の帝王・トート」に愛された存在として描いています。エリザベートはまだ幼い頃に、事故により臨死体験をしますが、このときにトートと出会いました。それ以来トートは、事あるごとにエリザベートの前に現れては黄泉の世界へと誘い込もうとしますが、エリザベートはそれを拒絶します。この2人のやり取りは、トートをエリザベートの中の「死にたい気持ち」として擬人化していると考えられるのではないでしょうか。

心理療法では、「死にたい気持ち」などのネガティブな感情を、自分と切り離して考える「外在化」という方法があります。気持ちが大きすぎると飲み込まれて、自分が全て死にたい気持ちになってしまっているという考えになりがちです。外在化することで、ネガティブな気持ちも自分自身の一部だけれど全てではない、ポジティブな気持ちも色々な気持ちがある、考えられることができます。

ミュージカルでは、トートの美しくも妖しい死への誘いを、エリザベートが時には強く、時には弱々しくはねのけていきます。それだけ死への憧れが強いながらも、アナーキストに殺されるまで、エリザベートが自らの意志では命を絶つことがなかったのは、擬人化することで希死念慮と闘うことができたからだったのではと思います。

実在の皇妃がどう考えていたかは分かりませんが、外在化の知恵を借りて、負の感情と向き合ってみませんか?一人では難しいときは、是非カウンセリングなどの専門家を訪ねてみてくださいね。

王冠のイラスト

 

MEDI心理カウンセリング大阪

公認心理師・臨床心理士 可児

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